山行報告   剱岳窓巡り

山域
剱岳北方稜線
山行日
2003年8月15日〜17日
山行目的
剱の代表的窓、大窓・小窓・三の窓を一気に巡る
メンバー
平井(L)、宮崎、松井、坂川、奥野(記、発案)
コースタイム
● 8月15日 曇時々小雨後たまに晴れ
上市町役場6:05 → 取水口6:55 → 雷岩7:45〜7:50 → 大窓取り付き滝上部9:21〜9:31 → 大窓15:00
● 8月16日 快晴後時々ガス
出発6:00 → 小黒部谷大窓谷出合い8:02 → 池の平小屋9:57〜10:33 → 小窓12:30〜12:43 → 三の窓16:10
● 8月17日 夜明け前から雨、そのうち時々土砂降り
出発5:41 → 二俣7:25 → 小窓尾根取り付き8:10 → 小窓乗越8:40 → 雷岩9:56 → 取水口11:23 → 上市町役場12:30
写真
http://www.toyama-rouzan/kiroku/2003/mado_photo.html

プロローグ

コトの発端は、去年(2002年)会事務所にかかってきた一本の電話だった。「大窓へのルートについて、何か情報があれば知りたいのですが。」

当時大窓は、会員で無雪期に登った人の記録は無く、また、ググってみてもヒットしない、いわば剱北方稜線の空白地帯だった。2001年秋、白萩川を遡ってみると西仙人谷(小窓へ突き上げる)・中仙人谷(大窓へ突き上げる)・東仙人谷(赤禿へ突き上げる)が三俣にそれぞれ滝で出合うなかなかの場所があるとわかった。大窓の滝は当会の安田・鈴木(琢)コンビが乗り越して大窓直下2000M付近まで登っている。そのときの様子をつたえると、問い合わせて来た山屋にして沢屋の彼は、今回のコースを単独・二泊三日でこなし、リポートを送ってくれた。

リポートを読み写真を見た私は、何とか自分でもこのコースを辿りたいと思い、去年秋、まずは大窓まで日帰りで行き、今年はやるぞと計画を掲示したところ、心強い四人の仲間を得ることができ、今回の山行となった。

8月15日(金) 曇時々小雨後たまに晴れ

取水口〜雷岩〜三俣

天気を気にしながら上市町役場を出発したのが予定より小一時間遅れの6時5分。雲は厚そうだが幸い雨は降っていない。取水口に車を停め身仕度を整えいよいよ窓巡りに出発する。白萩川はかなり水量が多いが問題になるほどではなかった。ただ、水が予想以上に冷たい。

雷岩で一息いれて、もう何度も来た道を上流に向け出発する。標高1400M付近か、ほどなく雪渓が現われる。なるほど水が冷たいはずだ。事前の情報で知ってはいたが、実際この時期この雪を見るとちょっと驚いた。三俣は完全に春の雰囲気、東西仙人谷の滝は上部だけ現われていたが、中仙人谷(大窓への谷)は完全に雪の下、何の問題もなく中仙人谷に入り、一息いれてトレッキングシューズに履き替える。

三俣〜大窓

谷は雪渓とガレが交互に現われる。1800M付近からは、谷の俯瞰が素晴らしい。ここまで順調で、初日池の平も楽勝だと思っていたがとんでもないことで、ここからが大窓の本領発揮だった。1800M付近の複雑な分岐で一番北側に入ってしまう。これは、白禿直下に突き上げるゴルジュだ。1700M付近の分岐で南側に入ってしまうと行き止りになり大窓には到達できない。また、1800M付近の分岐で一番北側に入ってしまうと白禿直下へのゴルジュに迷い込む。2000M付近で間違いに気づき、少し戻り南へトラバースする。急な草付きのトラバース+藪漕ぎは私達の体力を急激に奪い去り時間がどんどん過ぎて行く。

三時間あまりもがいてようやく古い鉱山道とおぼしき踏み後に出た。15時、疲れ果ててようやく大窓着。初日の幕場はやはり大窓だった。事前の情報で大窓谷は雪が詰まっていると聞いていたので水を担いでいなかったのが幸いだったが、とにかく疲れた。

大窓への登りは、三俣の滝の通過、中仙人谷のガレ、複雑な支谷の分岐の三つのポイントがある。滝は、空身なら何とか登ることが出来るが、テント担いでこすのは大変だ。とにかく注意して登ること。ガレは、「こんなのが何で浮いてるの」と言うくらい大きな岩が浮いていて、指一本で崩落することがある。普通の感覚で岩に触ってはいけない。谷の分岐は複雑で、行き過ぎを感じたらなるべく早く元の場所に戻るほうが無駄な体力の消耗を防ぐことが出来る。地図の谷の部分を大きく拡大コピーして、高度を確認しながら進むしかない。とくに一番南の谷と一番北の谷に入らないよう気をつけること。

8月16日(土) 快晴後時々ガス

大窓〜小黒部谷・大窓谷出合い〜池の平

二日目の夜が明けると、快晴だ。今日は、小黒部谷を越えて池の平に至り、小窓〜三の窓と続く長丁場なので、この晴天はありがたい。

大窓直下は斜面が急で、雪渓の最初は、僅かな距離だがクライムダウンするのが怖いくらいだ。念のためザイルを出して懸垂で下りるが、ザイルを回収しようとすると支点に引っかかって回収できない。結局、平井さんが引っかかりをほどきに登り返し、確保無しで下りる羽目になった。喉の急斜面を過ぎると後は問題ない気持の良い下り。途中、雪渓左岸に落ちる流水を見つけ、水を補給する。ほどなく小黒部谷・大窓谷出合い着。一張りくらいは張れる幕場がある。

出合で針路を右に取り小黒部谷を詰める。途中から小屋が見える。あと200M程で雪が切れ、最初少し藪を漕いだら右手に小さなルンゼがありそれを詰めることにした。息が上がってきた頃、小屋直下に至り、一頑張りで小屋に出た。晴天のもと、八ツ峰が素晴らしい。大休止をとり、北方稜線の情報を仕入れ、今夜の燃料(麦酒と酒)も仕入れ出発する。

池の平〜小窓〜三の窓

小窓雪渓に出るトラバース道を行く。池の平山からの尾根を横断し、小窓雪渓を左下に見ながら進む。途中、高度感のあるトラバースもありちょっと緊張するが、好天に助けられ問題なかった。道が途切れたので雪渓に降り立つ。見上げると、今降りてきたあたりに白マルのマーキングがあった。

小窓雪渓は斜面も穏やかで、谷は開け明るく気持が良い。雪はコル直下まで付いていた。小窓に立ち西仙人谷を見下ろすと、崩壊の激しいガレが続いている。無雪期にここを下るのは、ちょっと怖すぎると思う。

小窓で中休止したら三の窓目指して北方稜線を進む。途中踏み後が錯綜し、誤って小窓尾根に迷い込みそうになる。小窓の王バンドトラバースの少し手前には急な雪渓のトラバースがあり、これは緊張した。道を探しながら進んだことと一度道を間違えたことなどがあり、三の窓到着は予想よりだいぶ遅い四時過ぎだった。大窓からの長丁場で、矢張り今日も疲れた。

三の窓は、景色は素晴らしいがあまりきれいとは言えない。岩の隙間にはゴミが捨ててあったりする。「こりゃ来年の清掃登山は三の窓が良いか。」というのは、半ば本気半ば冗談。水は、目の前の雪渓を溶かしても良いが、チンネの根元方向へ少し進むと流水があったので、それを使うことにした。テントは私達だけ、池の平で仕入れた燃料で大いに盛りあがった。

8月17日(日) 夜明け前から雨、そのうち時々土砂降り

三の窓〜池ノ谷二俣〜小窓乗越

三日目は夜明け前から雨、時折激しくテントを打つ雨音を聞きながら、最悪三の窓雪渓を下り剣沢雪渓を登り室堂から帰ることになる??等と考えたりする。豪雨で雷がなったら、それが一番安全な撤退ルートかも。幸い、雨ながらそこまでの荒天ではなく、テントを撤収し池ノ谷を下り始めることになった。

池ノ谷の下り始めは急なガレ、とにかく雪に乗らなければ話にならない。大窓の中仙人谷とここは良い勝負か、とにかくビックリするような大きな岩が平気で浮いている。落石に気をつけ慎重に降りるのは疲れるし時間がかかる。おまけに雨に濡れたザックは鉛のように重い。ようやく雪に乗ったときは、ホっとした。

急な雪渓を下り始めると、時折ガスが切れ、池ノ谷の両側の峨々とした岩綾が姿を現す。2時間30分程頑張ったら二俣だ。ここは、雪面が広くようやく緊張から解放される。一息いれてから更に下ると、程なく雪が切れる。アイゼンを外し右岸の踏み後をしばらく辿ると、小窓乗越への道標の赤布が枝に下がっている。トラバース、登り、トラバース、急登で小窓乗越着、大いに疲れた。

小窓乗越〜雷岩〜赤谷尾根巻き道〜取水口 (Goal!!)

小窓乗越からの急な下りは、慎重に降りないと行けない。もう道程は最終盤、緊張の糸も途切れがちになるがここで気を抜いてはいけない。当会の中村さんや上市峰窓会の整備で、ルートは明確で要所のトラロープがありがたい。最後の下りは、落石に注意である。斜面がゆるむと草むらを抜け雷岩に到着、ようやくほっとする。休憩していると、白萩川を渡って来る3人パーティがある。聞くと、小窓尾根をやると言う。この天気、今の時期、なんという根性だろう、半ば唖然としエールを送り別れた。

白萩川を右岸ヘと渡り、赤谷尾根の巻き道を目指す。渓どおしで行けないこともないだろうが、最後に無理することもないだろう、安全策で高巻き道を行こう、ということになった。高巻き道の入り口のある段丘が大分削られていて、上流から来るとちょっと解りにくい。池ノ谷出合いチョイ下流でヘツるところがあり、そこから右岸の段丘に上がる。

これが最後だ、と自分に言い聞かせ高巻きにかかる。大きく登り、トラバース、急な下り。最後は足がガクガクになりながら取水口に到着、思わず皆で握手を交わし、全員無事の完踏破を祝いあった。

エピローグ(感想)

今回は「雪」に助けられた。雪のお陰で中仙人谷の滝は簡単に越えることができ、中仙人谷のガレはその大半が雪の下で、大窓でも水に困らず、大窓谷・小黒部谷も沢歩きではなく雪渓歩きだったし、池ノ谷も楽に下降できた。平年並の残雪ならこうは行かなかったと思う。ただ、中仙人谷でルートを誤ったのは、反省材料だ。事前の情報や去年の経験にだけ頼らず、もっとこまめに地図を確認していたら、こんな迷走はなかったと思う。基本はやはり「地図」だと実感した。

このコースは「沢」「雪渓」「ガレの通過」「滝登り」「岩綾」「ルートファインディング」そしてタフな「体力」と山登りの多くの要素が凝縮された素晴らしいものだと思う。おまけに、ポイントでは素晴らしい景色もあり、殆んど人にも会わない。また機会があれば辿りたいと思う、良いコースだった。


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