山行報告 小窓尾根・北方稜線・早月尾根

山域・山名
小窓尾根・北方稜線・早月尾根
山行形態
登山
山行日
2005年5月1日〜4日
メンバー
堀(L)、平井、山岸
コースタイム
[一日目]
5:10 馬場島 → 6:10 取水口 → 7:00 雷岩 → 9:00 1614Mピーク → 12:50 偽ドーム(幕営)
[二日目]
13:20 偽ドーム → 14:30 ドーム(幕営)
[三日目]
5:45 ドーム → 8:45 ナイフリッジ → 9:00〜10:40 マッチ箱 → 11:50 小窓ノ王基部 → 12:15 三ノ窓 → 13:20 池ノ谷乗越 → 14:00 長次郎のコル(幕営)
[四日目]
4:55 長次郎のコル → 5:15 剱岳頂上 → 7:15 早月小屋 → 10:45 馬場島

去年は自分の中で一番、山に対して積極的に取り組んだ年だったと思う。沢、岩、縦走、講習会など、山の世界が大きく開けていったが、同時にロープワークやその他のスキル習得も必要だと感じていた。そこでGWにはさらに一皮剥けたいと思い、総合力No.1のビッグネーム堀さんと、オールラウンダーで若き会長平井さんの胸を借りて小窓尾根から剱頂上を目指すこととなった。このルートにはニードル、ドーム、ピラミッド、マッチ箱など、特徴的なネーミングを持つ箇所が連続するので、それらを自分の目、肌で確かめることができる。この山行をどうにかして成し遂げて自信に繋げたいと考えていたので、「絶対登頂するぞ」という断固たる決意をもって臨んだ。

[一日目]
馬場島発 取水口 渡渉1
渡渉2 池ノ谷出合い
[二日目]
ニードル 天日干し ニードル基部
ドームよりマッチ箱 富山平野の夕焼け
[三日目]
ナイフリッジ1 ナイフリッジ2 小窓の王とチンネ
雷鳥のつがい. チンネをバックに1 チンネをバックに2
チンネをバックに3 三ノ窓への登り 八ツ峰の頭
八ツ峰
[四日目]
御来光 ブロッケン現象 剱岳頂上1
剱岳頂上2 早月小屋 小屋より小窓尾根

[1日目:5月1日(曇りのち雨)]

馬場島の交番前駐車場は車で8割がた埋まっていた。登山届けを提出しに交番に入ったが、誰も出てこなかったので届けを置いて出てきた。かんじきは不要なので車に残しておいた。

白萩川左岸の道路を歩き、取水口堰堤へ向かう。まだ桜が咲いていた。堰堤のすぐ手前でサンダルに履き替え、プラブーツを首に掛けて左岸へ1回目の渡渉。この渡渉は足首くらいまでだが、やはりこの時期の川の水は冷たかった。再びプラブーツに履き替えて堰堤を越え、今度は右岸へ2回目の渡渉。今度の水量は僕の太ももまであり、流れも速かった。ズボンを目一杯まくり上げ、少し下流に向かう形で斜めに渡渉した。これでも例年より水量が少なく、水温も温いとのこと。

白萩川のゴルジュ帯(タカノスワリ)の雪の上は歩きやすかったが、中央部は雪が解けて川が見えている箇所もあり危険なので、先行者とは50M間隔で、なるべく端を歩くことにした。池ノ谷の出合いで、6人パーティーが休憩していた。彼らは池ノ谷ゴルジュから降りてきたとのこと。そこから白萩川方向に10分ほど進むと、雷岩に到着。そこから小窓尾根に取り付く。初めは急登だがアイゼンはまだ付けず、キックステップなので、キックが甘いと踏み込んだときに何回かずり落ちた。先週のしんきろうマラソンで筋肉痛だった太ももが、この長い急登とキックステップで再び攣りそうだった。一度攣ると癖になり、今後の行動に影響するので、急な登りが続く1614Mのピークまではごまかしながら行かなければと、ちょっと弱気になっていた。なんとか1614Mに到着すると早月尾根側の展望が広がり、剱尾根や三ノ窓も眺めれた。

ここからさらに尾根を進み、ニードル、そして本日の幕営予定地であるドームを目指す。この先はどんなだったかよく覚えていないが、風が出てきて少し肌寒く感じた。トレースはあったが、白萩川側の崩壊寸前の雪庇上を通過していた箇所があったので、そこはもっと池ノ谷側にルートを取った。一度長く下り、その直後の急な雪壁はバイルとピッケルを駆使して登り詰め、広めのコルに出た。ここがドーム、そしてさっきの長く下る前のピークがニードルだということで、ここにテントを張った(しかし翌日ここがドームではないことに気づく)。

テントの中でのんびりしていると、いつの間にか風が強くなり、雨も混じってきた。そのうち暴風雨となり、入り口の正面から風を受け、テント入り口の吹流しから雨が入り込んできた。入り口をツェルトで抑えるなどして1時間ほど耐えていたが効果はなく、一向に収まる気配がないので、近くの雪庇の反対側に雪洞を掘り、その中にテントごと入って難を逃れた。就寝後、何時頃だっただろうか、突然雪洞が崩れるような音が聞こえた。僕は今年2月の雪崩講習会の埋没体験で、雪に埋もれたら絶対に助からないことを実感していたので、このときはかなり焦った。ヘッドライトを点けて、堀さんの足と平井さんの顔面が、雪の重みで凹んだテントに潰されているのを見たときはショックだった。雨で雪が融け、天井の出入り口側が崩れたらしい。慌てて雪を押し返そうとするが、やはり雨を吸った雪は特に重く、ビクともしなかった。しかし意外にも他の2人は冷静で、特に顔面が大変なことになっているはずの平井さんも、ぎりぎりで無事だった。このあと堀さんが雨の中、テントを潰した雪を退かし、屋根が無くなった部分にはツェルトでカバーした。堀さん、お疲れ様でした、すいません。しかし僕はその後もまた崩れるんじゃないかと心配で、朝が待ちどおしかった。

[2日目:5月2日(雨のち晴れ)]

この日は朝になっても雨が止まずガスっていたので、停滞を決めていた。こうなるとやることがない。7時くらいまで寝袋に入っていて、朝飯にラーメンを食べた。9時くらいにようやく晴れてきたので外に出て、濡れたテントや寝袋などを天日干しにした。適度に風も吹いていたので、見る見るうちに乾いていった。また、雪洞周辺の雪量にまだ余裕があったので、もっと奥まで掘った。そのあと明日のルートの下見に行くことになり、水と登攀道具を持って出掛けた。アイゼン装着して藪、雪稜、岩稜を登っていくと、実はこの先がニードルだったことが分かり、すぐに戻って荷をまとめ、再びニードル、ドームへと向かった。

ニードルはてっぺんへは登らずに、その直下を池ノ谷側に巻く。さらに進むと丸っこいピークに出た。これがドームであり、そのほんの少し先が幕営地である。雪をレンガのように四角く切って壁を作り、昨日の教訓を生かす。ドームからの眺めは抜群で、毛勝、赤谷、小窓ノ王、チンネ、本峰、早月尾根、富山平野、富山湾など360度すべてが見渡せた。夕方ドームから見た富山平野の夕日は最高にきれいだった。外は風がそこそこ強かったが、就寝中は雪壁のおかげで安心できた。ただ、足が蒸れて異常に痒かった。

[3日目:5月3日(晴れ)]

この日は小窓尾根の見せ場であるピラミッドのナイフリッジ、マッチ箱を経由し、三ノ窓まで、余裕があれば長次郎のコルまで行く予定。

ドームから少し下ると急なブッシュに突き当たり、確か2ピッチあったと思うが、堀さんがダブルロープでリードする。2ピッチ目の終盤まで来ると潅木や藪がなくなり、岩だらけの稜線に出た瞬間・・・、その稜線があまりにも細く、しかも両端が深く切れ落ちている。これがピラミッドのナイフリッジである。状況を分かりやすく言えば、三角木馬に跨ったまま5Mほど進むようなもので、アイゼンの歯を注意深く岩に乗せて進まないと、足を滑らせようものなら股間を強打することになる。自然界でこんな形状を造りだすなんて、さすがは剱の岩稜だと感心した。しかも天候に恵まれたおかげで眺めも良かったので、1日停滞して正解だった。

ザイルをここで片付け、次は正面にでっかくそびえるマッチ箱に取り付く。ここも急なブッシュだが、ザイルでビレイされていないので絶対に落ちてはいけないと思い、灌木や藪を掴み、時にはジャミングを駆使して体を引き上げた。アイゼンの歯が岩で滑って、とっさに古びた残置ロープを掴んだこともあった。また、雪や氷が岩壁に残っている箇所も多かったが、ピッケルとバイルのダブルだと安全に突破できた。マッチ箱を終了すると、安心するわけではないが、とりあえず安全圏に入ったと思う。小窓ノ頭を経由した後、小窓ノ王の基部から三ノ窓の間の急な雪壁でもザイルは使わず、ピッケル・バイルのダブルでバックしながら降りた。

三ノ窓に到着したのがお昼過ぎ。ここまでザイルを出す回数が少なかったため、時間に余裕があるので、長次郎のコルで幕営することとし、幕営地に向け出発した。池ノ谷ガリーのトレースにはしっかりとステップが刻まれていたので、階段状で登りやすかった。池ノ谷乗越では細いコルにテントが4張りもあり、また八ツ峰から10人くらいのパーティーもやって来るし、賑やかだった。

今年の登山届出総数は174パーティー、747人だそうだ。長次郎の頭から振り返り、今朝歩いてきた小窓尾根の岩稜を見下ろすと、ほんの数時間前のことがとても懐かしく感じられた。幕営地の長次郎のコルにはテントが4張り、坊主頭の若者10人ほどのパーティーが先に幕営していた。ここから頂上へは30分ほどで行ってしまうのだが、幕営地としてはここが最適だった。頂上付近にもテント1張りくらいのスペースがあるらしいのだが、そこが使用中の場合、早月小屋のテント場まで下りるしかないからだ。まずはテントを設営し、ビールで乾杯、その後は各自好きな場所で昼寝するなど、リラックスして過ごした。僕は足が蒸れて痒かったので、豊富な雪で洗いまくった。この日も富山平野の夕日はすばらしかった。明日はいよいよ剱本峰である。

[4日目:5月4日(晴れ)]

就寝中から風が強くなり、テントが落ち着きなく揺れていた。個人的には足が蒸れて、痒くてたまらなかった。3時半起床。外は風のせいでかなり寒く感じたが、今日も天気が良さそうで運がいい。日の出と共に、いざ本峰へ。山行のゴールとは帰宅したときであり、本峰は決してゴールではないのだが、出発して直に登頂するのはもったいない気もした。途中にブロッケン現象で、剱の影が西の空に映った。山頂は近い。そのうち祠の屋根だけが見えた。ついに頂上に到着。ずっと思い続けてきた目標をようやく成し遂げることができた。金メダルでも獲ったような気持ちになり、声を出して喜んだ。アテネの北島康介の気分だった。

早月尾根からの下山も気をつけなければいけない。ガスると迷いやすいし、場合によっては懸垂が必要だという。今回は雲一つない快晴で、とりあえず堀さんの後をついていくことで迷ったり懸垂はなかった。ただし急な下りではやはりピッケルとバイルを使ったし、アイゼンのままで岩稜を下るときには慎重にならざるを得なかった。堀さんはどんどん先を行き、早月小屋では買ったビールを開けずに待っていてくれた。小屋以降、僕はアイゼンを外して降りたが、履いていたほうが楽で安全だと思った。危なかったのは100Mくらいの大急斜面で足を滑らせた時で、事前に習得しておいたはずの滑落制動を試みたが、雪が腐っていたのでピッケルの歯を入れても止まらず、そのまま下まで滑り落ちてしまった。おかげで早く下ることができたが。そろそろ松尾峠という辺りで、堀さんと僕は道に迷い、最後の最後に藪こぎのアルバイトをして白萩川左岸の林道に降り立った。馬場島の駐車場では、先に着いた平井さんが心配そうに待っていた。

アルプスの湯で痒かった体を洗い、2階フードコーナーでカツカレーを食べた。カツが揚げたてで旨かったし、ラーメンもそばも本格的で実に旨そうだった。

例年だと冬の間はゲレンデスキーがメインだったが、それではGWにはスタミナ不足になると思っていた。そこで2月にこの山行が立案されてから山スキーを始めた甲斐があり、小窓尾根を踏破するスタミナをつけることができた。 しかし今回は天候に恵まれたおかげで、ピラミッドやマッチ箱などの難所もベストの状態でクリアできたのだと思う。今回とは違った条件になると、同じルートでも難易度はグンと高くなるだろうから、まずは初級レベルでちょうど良かった。剱には他にも有名なルートがたくさんあり、全国から多くの山ヤが集まってくる。自分もそんな一人であることを実感し、今回の山行でますます剱が好きになった。夏になったらチンネとか八ツ峰とかにも挑戦し、いろんなルートを踏破したいと考えている。

今回の山行で僕を前から後ろからサポートしてくださった堀さん、平井さん、どうもありがとうございました。

 

富山労山の山行報告小インデックスへ。
富山労山のホームページへ。