さて今回の企画は、野積川の源流を東又谷でいったん県境稜線に登り詰め、枝沢を下行し真川谷に降り立ち、降り立った真川谷を水源の白木峰まで遡行すると言うちょっと野心的なもの。東又谷と枝沢の下行は、「さゎわらし」に載っていた。彼らは、真川谷に降り立った後、そのまま下行し車に戻っている。私達は、下行せずに遡行し、白木峰のニッコウキスゲ群落のど真中に出ようと目論む。ビバーク予定地点は、県境稜線から枝沢を真川谷に降り立った辺りとする。ただし、天候の具合や時間などによっては県境稜線でのビバークもあり、とする。さぁ、どんな沢旅となるでしょうか。なお、東又谷の県境までの遡行には、「さゎわらし」に掲載されていた遡行図を参考にしたが、とても助かりました。ありがとうございます。
下山に備え奥野車を白木峰の駐車場に廻し、尾田車で野積を目指す。野積川林道の奥の取水口に尾田車を停め、身仕度整えて出発。単独の釣り人が先着していて、少し話をする。彼は真川谷を釣り上がるとのこと、我々は東又谷を行くので、双方ラッキーである。
東又谷へは、車で来た林道の延長をそのまま進む。林道は、暫く行くとほとんど草で覆われた践み跡になってしまう。枝沢を遡るように方角を変えるあたりで東又谷本流沿いに践み跡を探し、もう暫く行くと流れに降り立つ。少し進むと堰堤があり、それが最終堰堤。
入渓し少し進むと15mの滝に出る。皆は右岸を直登、私は左岸(右手)の枝沢を使って高巻く。その後も次々と5mクラスの滝が現われ、退屈しない。相当に狭い部分もあり、かなり際どく越える場面も。さらに幾つか滝を越えると、ゴルジュの奥に5m程度の滝が現われる。滝壷付近の両岸はツルツルで手懸りが無い。少し手前の左手(右岸)から少し上がり、ツルツルの崖にあるバンドをトラバースしなんとか落ち口に立てそうだ。泥壁を少し登ったところにハーケンを打ち、セルフを取る。私がビレーし、加納さんが空身でトラバース開始。途中一ヶ所、ハーケンを打ってランニングビレーを取り、さらに小枝で二箇所ランニングビレーを取って、最後はジャンプで落ち口に立つ。セカンドに私が行く。最後の落ち口へのジャンプはとても出来ず、滝最上段の中折れの部分に懸垂で降りようとするが、ここで落ちかける。加納さんのビレーで亊無きを得たが、ちょっと危なかった。滝は、最上部で2段になっていて、最上段の滝壷付近が安全に立てる場所となっていた。最上段は、簡単に登ることが出来、加納さんの立つ落ち口に出ることが出来た。
三番目に尾田さん、最後に宮崎さんに来てもらったが、加納さんのザックを持って来ることが出来なかったので、誰かが回収しに戻らなければならない。右岸を観察すると、今トラバースしたバンドの少し上が、立木交じりの薮になっていて、比較手安全に戻れそうだった。最後は、トラバース開始したあたりにホンの少しの懸垂で降り立ち、ゴボウで薮まで登り返せそうだ。右岸の薮には、滝のホンの少し上流からは簡単に入れそうだ。私と加納さんで右岸の薮に入り、途中、加納さんに確保してもらいバンドに降り、ザイルを回収しつつトラバース開始地点に至る。加納さんのザックを担ぎ再びトラバース、今度は最後までトラバースせず、薮からバンドに降り立ったところでビレーのザイルを強引にゴボウで薮まで登り返し、ようやくザックを回収、全員通過できた。
この滝を抜けた後は流れも比較的穏やかになった。足下を岩魚が走ったので、加納さんは竿を出す。でも釣れませんでした。先刻の滝の通過に思いのほか時間をかけてしまい、ゆっくりと釣りを楽しむ時間が無いのが残念。やがて三又、右又を行く。だんだん源頭に近い雰囲気になって来るが、流れは枯れない。あたりは素晴らしいブナの林。時間がどんどん過ぎて行くが、稜線には未だ着かない。時間的に真川谷への下行は無理と判断し、稜線でビバークとする。真川谷へ下行するならそのまま最源頭まで行き向こう側を下行すれば良いが、我々は稜線に上がるので、最後の部分で薮に入る。なんと、赤布のマーキングがあるではないか。薮をホンの少し進むと谷の始まりのような、通り道に出る。更に行くと県境。県境稜線はしっかりと刈り開けてあって、十分快適なビバークサイトである。
月が美しい夜は、穏やかで良く眠ることができた。天気予報以上に好天の朝、6時前に出発。県境の刈り開けを行けるところまで行き、出来るだけ上流で真川谷に下行、予想される核心部をバイパスしようと言うのが今日の目論見。しかし無情にも刈り開けは、二つめの1336から先で万波に向かって下行して行くようだ。残念。
少し戻り、二つの1336峰の鞍部から下行を開始する。薮はすぐに溝になり、薮漕ぎをほとんどせずに溝は小谷になる。流れは思った以上に現われるのが遅かった。流れが現われると、水が気持良い。小滝も次々と現われ、快調に下る。一ヶ所、少し大きめの滝でザイルを出し10mあまり懸垂下行。さらにどんどん下ると、大きな流れに出合う。真川谷である。
真川谷に出合ったところで小休止。水量は予想よりも少めで、これなら遡行に渋い思いをすることもなかろう、天気も良いし川幅も広いし楽勝かな?とちょっと甘い考えが頭をよぎってしまった。甘い考えは、あとで見事に裏切られ、十二分に楽しませてもらいました。
さて小休止後、本谷の遡行を開始する。所々の渕では岩魚が走る。もう少し東又谷を手際よく遡行できてたら、この幕営最適地で泊まることが出来たのに、ちょっと残念だ。やがて少し流れが狭くなると滝が現われる。水量も川幅も東又谷とは桁違いなので、滝もこちらは豪快だ。しかもこちらは川幅が広いので、越えるのも簡単である。
やがて、三段の大きなな斜瀑に出くわす。水量が豊富で、迫力もなかなか。滝の右手の岩を越えようとするが、ツルツルで越えられない。岩の手前から薮に突入し、潅木交じりの薮を越えたら落ち口の向こう側だった。次は大きな釜を持った二段のオチ。右手から一段目を登って上の釜を左手に渡り、二段目のオチを登る。更に行くと今度は15m程の滝。東又谷の最初の滝に少し似ているが、こちらの方が水量も多くずっと明るい。加納さんと尾田さんは滝の右手を強引に直登、加納さんにビレーしてもらって私と宮崎さんはトップロープで続く。
そろそろ良いかな、と思ったところでどうにも登れそうにない大滝20mが現われる。右手少し手前の小ルンゼをヨジッて薮の潅木を掴み、そのまま強引の登り向こう側に出ようと突っ込む。ところが登攀路に使った小ルンゼが思いのほか悪い。細い潅木の根方に全体重を預けてその上の泥斜面に出なければならない。さらに、泥斜面から身体を大きく伸ばしようやく枝を掴んで強引に斜上、安全を確保できる場所に着き、落ち口を目指す。目指す落ち口近くまで来てみると、足元から下が大きく崩壊していてとても降りられそうにない。しかもずっと向こうまで、左岸は50mを越えそうな岩壁が続いている。300m以上先に見えるブナの大木の向こう側が降りられそうな感じだ。これは大変な大高巻きになりそうである。
とにかく、性根をすえて大高巻きにかかる。薮は思った程濃くないため、進むのに難儀するほどではない。途中、下まで続いていそうな小ルンゼに出合ったので、立木に支点を取り懸垂気味に降りてみる。あと少し、その先で河原か、と言うところまで降りて愕然、50mを越える崖の上だった。仕方がないので、今懸垂気味に来たザイルを手繰るように登り返し、小ルンゼの右岸側に出る。後の三人は、ルンゼの左岸に残っているが、このルンゼを渡る部分がまた悪い。だいぶ上まで登ってから草付き気味を強引に渡って何とか進むことができた。矢張り性根をすえて高巻きを続けなければ、どうしようもないことを悟る。体力はまだ余裕があったが、今の登り返しは精神的にはかなりの打撃だった。
登り返した地点から100m程進むと、左下に河原が近づいて来た。最後、2mほどを枝に掴まり降り立つと、小さな雪渓の脇だった。何とか流れに降り立ち、ほっと一息入れる。振り返ると距離的にはほとんど進んでいないようだが、とにかく流れに戻り、遡行を続けることが出来て、一安心だった。
その先は、一つ大きな滝を越えたが、これは比較的簡単に小さく巻くように越えることが出来た。そこでどうやら核心部を越えたようで、流れは広い氾濫原のようになる。1300付近で顕著な二又、地図で確認すると右を辿るのが正解のようだ。左も右もすぐ先に滝が見える。我々は、地図に従い右に入る。すぐに滝が行く手を遮るが、二つは比較的楽に越える。三つめは、登り路の真ん中の石が浮いていて悪い。尾田さんが左手から石に近づき、浮いているのを落してくれて、登ることができ、全員後に続くことになった。
さてその滝を越えた前方に、絶望的な20m直瀑が見えてくる。源流に近いため、水量はさほど多くは無いが、とにかく登れそうに無い。右手の草付きも悪そうだし、左手を見ると視線の上3mほどに手懸りになりそうな枝が見えるが、そこまでが岩と泥壁で、ちょっと手が届きそうにない。尾田さんと宮崎さんの肩で足場を作り、加納さんが空身で枝まで何とか届くよう頑張る。ぎりぎりで枝に手が届き、そこから強引に笹薮まで上がったところで、下からザイル、連結したシュリンゲを投げて渡すことが出来た。枝にシュリンゲを掛け、笹薮のずっと上の方の立木にザイルを掛け、シュリンゲとザイルで枝から笹薮まで何とか登ることが出来た。ラストに私がザイルとシュリンゲを回収し、笹の濃い薮を強引に進んで滝の落ち口に出ることが出来て、ほっとする。
もう草原はそこ、と言うところまで来ているはずなのに、最後の手厚いもてなしを最後の気力で突破、その後はぐっとゴールが近い雰囲気になる。次第に流れが消え、溝状になると今度は笹薮の歓迎を受ける。笹薮の通せんぼを強引にかき分けると、白木峰の登山道にある道標が見えた。白木峰頂上は、もう誰もいないうえ、強風で少し寒い。ニッコウキスゲは未だちょっと早いらしく、ササユリとオオバギボウシの歓迎を受け、記念撮影。
さて、これで目出度くゴールのはずだったが、何と私は車のキーを尾田さんの車に置いて来てしまったことに気がついた。仕方がないので留守番本部の米沢さんに連絡、無理を言って迎えに来てもらう。米沢さんはこころよく迎えを引き受けてくれ、本当に助かりました。車を回収してパピの駐車場に戻ったら夜の10時、充実した沢旅もようやく無事終えることが出来ました。
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