さて、ニ万五千分の1地形図「毛勝山」を拡げてみよう。片貝川南又谷が西流から北上に向きを変える辺りで「坂様谷」「土倉谷」の二つの谷と出合っているのが分ると思う。今回辿ることにした土倉谷は、大倉山と土倉山の間の1274mの顕著なコルに突き上げている。コルの早月側も下れそうな谷で、早月川支流の鍋増谷に出合っている。これこそ遠く戦国時代、片貝谷から早月谷に抜ける隠し街道、忍者道に違いない。行けば恐らく当時の名残りの遺跡が見つかるかも(んなわけないか…)、ということで、今シーズン一発目は片貝〜早月の分水嶺越えとすることにした。
まずは、早月川支流鍋増谷の土倉山南西尾根取り付き辺りに車を廻し、片貝谷を目指す。片貝川南又谷出合から南又林道を辿り、新土倉橋のたもとに車を停め、身仕度整え入渓する。
出合の堰堤を左(右岸)から乗り越し、河原に降りる。水量は少く、川幅もさほどではないが、しばらく行くといきなり巨大なスノーブリッジに行く手を阻まれる。下は真っ暗で潜るのはちょっと難しく、上流側の降り口は高さ20mを越えている。右(左岸)から高巻こうとするが、悪いので断念、スノーブリッジ降り口右手側の最初の潅木に支点を取り、8mm×30mザイル二本で懸垂、最初の難関をクリアする。ザイル二本あって助かりました。
河原に降り立つとすぐに滝、これは右(左岸)から乗り越す。落ち口付近にハーケンとシュリンゲの手懸りが残置してあり、助かる。更に進むと堰堤。発電所に導水菅が伸びる最終堰堤である。堰堤を過ぎると、雪渓や滝が連続して現われる。雪渓の下を潜り滝は右から越す。ここで、ザイルを1ピッチ。つぎの滝は、流水の真ん中の足場を利用してシャワークライム。未だちょっとシャワーには寒い。さらに直登無理な滝が現われ、これは右(左岸)の小ルンゼを使って高巻く。高巻きから河原に降りると雪、しかも降りた少し先でクレパスが口を明けていたので、再び薮を登りもう少しトラバースでクリア、これで大方の難所は突破できた。
その後も1000mを切る標高なのに残雪は驚く程豊富、片貝谷の雪の多さを実感する。やがて谷も源頭に近づき、やや急な雪渓を詰めると二又になる。右手が大倉山方面、左の少し細い支谷が目指す1274mコルに至る谷だ。雪渓が切れると急な薮の小ルンゼになり、潅木や草の根を手懸り足掛りに頑張るとコルに到着する。予定どおりちょうど正午。大倉山方面も土倉山方面も薮が濃く何も見えない。鍋増谷出合い目指し薮の中を下り始めると、しばらくで右手から水音が聞こえる。やがて薮も切れガレを少し下ると本流に降り立った。
地図をひらいて現在地を確認する。この先は、多少滝が出るかも知れないけど、まぁ距離も大したことないし楽勝だろう、と勝手に予想し下行開始。最初はガレて開けた流れ、やがて川幅が狭まり傾斜もきつくなり滝の予感。案の定最初の滝にでくわす。一段クライムダウンするとその下にも更に二段連なっている。クライムダウンしたところの潅木に支点で懸垂5mあまり。
懸垂した後の最下段は何とか下ることが出来る。振り返ると、予想以上に立派な滝だ。更に小滝が連続し、楽しませてくれるなぁ、と思っていたらまた連続する滝が現われる。ここも最初の一段はクライムダウン、しかしその下が悪い。ヌルヌルの岩でとても降りられない。支点もない。今降りたところを登り返し、その上を側面ヨジ登って支点を取りそこからダブルで懸垂か?とも思ったが、ヌルヌルの岩にハーケンを打って支点を取り懸垂することにした。
何とかハーケン二枚打って支点にし懸垂で三段滝の二段目を降りる。降りたところで最下段も結構きつそうだ。ただ、右手の薮に逃道がありそうだったので、そちらに行ってみることにする。数mほど側面を登り薮の中をトラバース、20mほどトラバると本流の川面に続く小さな支谷へ出ることができ、難所はクリアできた。「楽勝!!」の予想は見事にくつがえり、十分楽しむことができて満足でした。
再び地図を見ると、もう一回難所が現われそうに見えたが、その後は平流れになり、おおかたの下行は終ったようだ。標高700m辺りまで下行すると、堰堤が出てきた。この最初に現われた堰堤は、地図に載ってないようだ。谷は崩壊で大きく開け、比較的細かなガレで埋まっており、次々現われる堰堤もほとんど埋まりかけている。堰堤のプレートを見ると「桂又谷平成7年度緊急治山事業」とあり、この谷は桂又谷だと分る。
堰堤と堰堤の間には、ほとんど朽ちかけた作業道があり、更に行くと下流から林道が上がって来ているのが見えた。林道は右手の山腹を巻くようにずっと上に通じているようだ。私達は、その林道を下る。立派な舗装の林道でちょっとビックリ、下り始めると間も無く朝デポしてきた車が見え、分水嶺越えは見事大成功。忍者が通ったのか猟師が往来したのか、はたまた木地師の道なのか、謎は深まるばかりだったが、梅雨の晴れ間の今シーズン一発目は、見事目論見どおり遡行下行でき大満足、会心の一本になりました。
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