積雪期の剣岳に登るとあって、たとえ春山とはいえひょっとしてすごく怖いかもというイメージがあり、期待とともに不安も大きかった。それもあってか初日は朝3時くらいに起きてしまい、集合時間には余裕で間に合ったが眠いスタートとなった。
馬場島の登山指導センターに出発を告げにいくと、ゴールデンウィークの期間中に剣に入るパーティーがすごく多いということだった。大勢の人が行くんだからその中でまさか自分たちのパーティーが事故に遭うことはないし、今日は早月小屋までだから危険な個所は余りないと、とりあえず暗示をかけて出発。しかし松尾平をこえて1900mあたりまで続く傾斜の強い尾根筋で、早くも目論見は崩れてしまった。早朝でまだ雪面も堅かったので、歩きにくいうえ、こけたら結構とまらなさそうと思っていたら案の定こけてしまった。たまたま近くにあった木の枝をつかんで止まれたが、ここから先はピッケルを用意して登っていくこととなった。大日岳や、小窓尾根が高度をあげるにつれてだんだんと近くに見られるようになった。そして1900mから先は比較的楽な行程で早月小屋についた。
時間もあったのでゆっくりとご飯を食べたり、コーヒーを飲んだりして過ごし、19時30分の剣沢のスキー組との交信時間になったが、無線はつながらなかった。ニュースでは、大日岳で行方不明になっている人がいるとのことで、昼間に県警のヘリが何度か飛んでいたのはその捜索に当たっているらしかった。
今日はいよいよ剣の山頂を目指しての出発となった。昨日と違い荷物も少なく、アイゼンもよくきいて歩きやすかった。しかし尾根の両側は谷底まで急斜面が続いており、万が一落ちたら結構というか、かなり問題だろうなと思った。2560mあたりに急斜面があり、ザイルを出すことになった。斜面によってはアイゼンが完全にはきかず、少しずれるような感じもあったので、ザイルによって確保されることで危険地帯を安心して通過することができた。ザイルは2614m峰のトラバースでも出した。一方でカニのハサミあたりの岩稜は、鎖もつけてあったりしてすんなりと越えることができた。
別山尾根との合流点にでると、やはり大勢の登山者が山頂に向かっていた。その列に混ざってなだらかな斜面を頂上へと向かった。山頂は、夏にあったはずの祠が雪の下に埋まっていてどこか違うところに来たのような気がしたが、ついにここまで来たという実感がじわじわと湧いてきた。山頂からは少し曇ってはいたが、鹿島槍などもよく見えていて眺めはよかった。山頂はかなりの人がいて、別山尾根だけでなく、八峰にも数珠繋ぎの登山者の列ができていた。
夏に来たときは余りの眺めの良さについつい長居をしてしまっていたが、春とはいえ頂上は風が吹いていて寒く、少し休んだあと早月小屋のテントに帰ることになった。
キャンプに帰る頃には15時前で、当初の計画では南壁を回ってもこれより早い計画だったのだが、慣れてないとやはりかなり時間がかかるということを思い知らされた。ただ個人的には剣に登れて、無事かえってこれただけで大満足で、山小屋で買ったビールの味も最高だった。
最終日は下山するだけで気持ち的にも楽だったが、下降は重い荷物もほとんど気にならないほど楽しかった。足を前に出すだけで前に進んで行けたが、たまにこけたりしていた。1500mあたりで登山道をはずれ、白萩川沿いの林道を目指し、まっすぐ斜面を降りていった。春山ならではの道で、あっという間に高度を下げることができた。馬場島までの道では、ワサビやふきのとうなどの山菜を眺めたり取ったりしながらのんびりと行ったが、それでも9時には到着した。馬場島でつい先ほど見た山菜が入った山菜そばを食べて、帰ることになった。
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